秋の特別展 江戸の武家屋敷  [一部]泥絵に描かれた大名屋敷



 日 時:2005年10月26日(水)〜11月19日(土)
       10:00〜17:00 無休
 会 場:昭和女子大学光葉博物館展示室
 入場料:無料
 後 援:世田谷区教育委員会






 ごあいさつ
 泥絵(どろえ)は、西欧文化の影響を受けて、幕末の庶民の世界に花開いた、独特の絵画です。同じ頃、江戸土産として同じように庶民に買い求められた浮世絵は、ゴッホの作品を始め当時のヨーロッパの絵画に影響を与えたということで再認識され、日本美術の世界で高く評価されていますが、ルネサンス期から西欧絵画の基本的技法となった遠近法を素直に受け入れ、ベルリンで化学的に合成された藍色、プルシアンブルーを効果的に使った泥絵は、全くといっていいほど日本の美術史界では評価されていません。泥絵は、技法と絵の具が新しいだけでなく、オランダから舶載(はくさい)された凸レンズを通して立体視する眼鏡絵でした。
 光葉博物館では、今回、本学生活環境学科の平井聖教授のコレクションをもとに、泥絵に描かれた大城下町江戸を代表する、大名屋敷が並ぶ武家地の景観の再発見する展覧会を企画しました。この展覧会には、泥絵の最大のコレクションである渡辺紳一郎コレクションからと、江戸東京博物館から重要なポイントとなる作品をご出品いただいています。この展覧会の意義をご理解いただき、貴重な渡辺紳一郎コレクションから作品をお貸しくださいました柴花江様と江戸東京博物館に御礼を申し上げます。
  2005年10月
昭和女子大学光葉博物館
泥絵とは
 泥(どろ)絵(え)は、泥絵具と呼ばれる舞台装置の背景などを描くような胡粉を混ぜたりした安い絵具で紙に描いた絵画です。蘭画に似せて、西洋から入ってきた遠近法を用いて描かれ、遠近法を強調しています。蘭画は油絵具で描かれましたが、泥絵は、油絵具を使っていません。泥絵の中には、左右反転させて描いているものがあります。泥絵を見るのに、「のぞき眼鏡」を使ったからです。

◇泥絵が描かれた時期 
 裏に慶應三丁卯年四月と書かれた泥絵が一枚ありますが、他には年紀を書いているものはありません。高輪の沖を描いた泥絵に、お台場がないものと、お台場を描いているものとがあります。お台場はペリー来航をきっかけに築かれましたので、年代がわかります。そのほかに年代を推定する手がかりはありませんが、維新までの半世紀ほどに、江戸土産として描かれたと考えられます。

◇泥絵を描いた絵師
 絵師の名前は、一部の泥絵にある落款でしかわかりません。「芝」「司馬口」を冠している絵師があり、芝で作られていたとの記録もあります。芝の入口に当たる新橋は、芝口とも呼ばれていました。泥絵を描いた絵師たちは、新橋あたりから芝すなわち、現在の田町のあたりまでに、住んでいたと考えられます。絵師のサインの一部に、ローマ字のようなものが見られますが、何と書いてあるのかはわかりません。

◇泥絵を商っていた店 
 言い伝えでは、神明前、芝の日蔭町に、泥絵を売っていた店があったそうです。芝神明の祭の夜店で泥絵を売っていたという情報もあります。日蔭町は、江戸時代には正式の町名でなく、寛文4年(1664)に柴口2・3丁目、源助町、露月町、柴井町の武家地に接する裏側に作られた新道に沿う町屋の町並みで、道が狭く日蔭で暗かったことからの俗称です。このあたりに、書物問屋や地本草子問屋が多かったとのことです。

◇泥絵の主題 
 泥絵で最大の渡辺紳一郎コレクションには、江戸を主題にしたものが227点あります。そのうちの108点は、武家屋敷のある景観を描いています。江戸土産だったと考えられる泥絵ですから、江戸の景観を描くのは当然のことですが、江戸を主題とした中でも、大名屋敷の続く景観が、主題として最も多く選ばれました。半数ほどが、大名屋敷のある景色を描いているのです。これは、同時期の浮世絵には見られない特色です。

泥絵に描かれた大名屋敷
 東大の赤門で知られているように、大名屋敷が連なる地域には、朱色の門がいくつも建っていました。泥絵にも、鮮やかな朱色の門が描かれています。
多くの大名が江戸城へと通った霞ヶ関では、黒田家の黒い門と浅野家の赤い門が対照的です。毛利家・上杉家そして少し先の井伊家が並ぶ、日比谷門から外桜田門そしてその先のお堀端への景観は、外様の有力大名が並ぶだけに見ごたえのある光景です。
大名行列が描かれています。家並みの上にあがる黒煙に向かって駆けつける火消したちが描かれています。道路を行き交う人々も描かれていますが、極端に小さく、簡略化されています。泥絵の主題は、江戸の特徴的な景観を描くことにあったと考えてもいいでしょう。
 都市の景観を伝える絵画には、洛中洛外図屏風に始まる都市図屏風があります。都市図屏風の街は、遠くへ行っても同じ大きさで、均質で装飾的です。泥絵には、豊かな奥行きがあります。実際に人々の目に触れる景観を、広角レンズで撮影した写真のようです。泥絵では、大名行列でも人物はほとんど直立して動きがありません。多くの場合動きの止まった静かな画面です。しかし、泥絵から受け取る印象は全く違い、これほどダイナミックに武家の町江戸を伝える資料は他にはなく、これこそ江戸の景観といいたいのです。







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